待ち合わせた時間から32分。
俺は息を切らせながら君の待つ店に駆け込む。




「カラン」

「ごめん西野、待った?」


『もー!淳平くんおっそい!』
「ほんとゴメンって!以後5分前行動に努めます・・・」
『よろしい!・・・なんつって。ふふ。実はそんなに待ってないよ〜ん』
遅刻するはずのない君が30分以上ここに座っていたことは明らかなのに。
それでも笑ってそう言ってくれる君が愛しくてたまらなくて。
『どうする?何か頼む?』
「あ〜さっき外村達と軽く食べたからコーヒーだけ・・・」
俺の発見。西野はきっと店員を呼ぶボタンを押すのが好き。
気持ちはよくわかったりする。俺もなんかボタン押すの好きだし。
でもそれを押すときの西野のふとした表情があまりにも可愛くて
それが見たいがために最近では押していない。
俺のコーヒーと西野の2杯目のコーヒーと
それからメニューの写真につられて
2人で分けて食べることにしたいちごパフェ。
西野と一緒に入った店で頼んで運ばれてきたものは
いつもすごくキラキラして見える。
なんだか、これがなくなるまでは絶対西野と一緒にいられるって、
そう思うから。
食べ終わったらすぐに帰るわけでもないのに
いつ西野がいなくなってしまうかと心の片隅で
心配している俺は酷く滑稽だ。


「あれ?西野、眼鏡?」
『うん。えへ。変かな?似合わない?』

「え・・・いや・・・てゆーかなんかドキドキするんですが・・・」
『あははっ 何 淳平くんてこういうのが好きなんだぁ!?』
「え!?ちょっ 違ッ ってゆーか西野だから!」
『え〜?』
「あれ?ってことは普段コンタクトしてたの?」
『ん〜ん。なんか最近急に視力落ちてきちゃってさぁ』
「え?大丈夫なのか?ちゃんと診てもらった?」


『ん?ああ、うん。昨日お母さんと眼科行ってきたよ』
「どうだって?大丈夫なのか?」







「・・・西野?」



「に・・・し・・・」





何か・・・何か言ってくれよ西野・・・











「な〜んちゃってー!いひっビックリした?」







カタンッ





ぱた・・・ぱた・・・



『ごめんね』





ほんの数日前
もし世界が真っ暗になったらあたしは淳平くんを見つけられるかなぁと
ポツリポツリとおとぎ話のように、悲しそうな顔で言う君を知っている俺にとって
その嘘はあまりにもむごすぎて
ごめんな。ごめんな西野。
君に強がりを教えたのは俺かもしれないのにね。
もう強がらなくて良いよ。
おどけることで自分を守らなくて良いよ。
変わりに俺が守ってみせるから。



大きな瞳からポロポロと零れ落ちる涙は
限りがあることを知っていても
いつまでも流れ続けるのではないかと錯覚するほどに
次々と溢れ出した。
まるでピンと張った糸が切られたかのように。






ほら、もう泣かないで西野。
大丈夫だよ。
一緒に手を繋いで帰ろう。


もし世界が真っ暗になっても
俺がしっかり手を掴んでるから大丈夫だよ。
知ってた?俺って目、良いんだ。
そう言ったら君はビデオばっかり見てるくせにね、って
あの屈託のない顔で笑ってくれるかな。
もし君が闇に飲まれそうになったら
君の目が覚めるように力いっぱい歌うよ
もし君が間違えた方向に進みそうになったら
正しい道が分かるように力いっぱい君の名を叫ぶよ
転びそうになったら変わりに転んででも俺が抱きとめるよ


だからほら、もう泣かないで 西野。


















                                                 。